ある男の視点2

ある男の視点2

 オレは親父が嫌いだった。
 きっと親父も、オレと同じように不自由な
人生を歩んだのだろう。親父の会社は祖父が
興したもので、あいつはそれをただ受け継い
だだけだ。綺麗に整備された道をまっすぐに
歩いてきたあいつは、オレにもそれを強要す
ることで、自分の人生を肯定したがっている
ようにみえた。あるいは、ゾンビが仲間を求
めて新たなゾンビを生み出そうとしているよ
うにも。

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 オレが親父の葛藤に気付いたのは、彼のい
かにも優等生的な書斎に、一枚の古臭いアル
バムが飾られていたからだ。それはビートル
ズの『アビー・ロード』だった。そのチープ
な彼自身へのアンチテーゼは、彼を一層う
すっぺらにみせた。


 母には、親父に内緒で会っていた。
 それが親父に対する、唯一の反抗みたいな
もので、今思えば自分のちっぽけさが嫌にな
る。堂々と会いたいと言い、堂々と会えばよ
かったのだ。あんな家さっさと出ればよかっ
たのだ。
 きっと当時のオレだって、今と同じように
頭ではそうわかっていた。でもオレはいつも
こっそりと、学校の帰りや、親父のいない休
日なんかに、息を潜めて母に会っていた。も
ちろんあの、ぴかぴかの革靴を履いて。

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 母は誕生日とクリスマスに、オレにプレゼ
ントをくれた。一四年前の冬、欲しいものを
尋ねられたオレは、「スニーカーが欲しい」
と答えた。安っぽい、ぼろぼろに履き潰すた
めのスニーカーが欲しい、と。
 オレは自由が欲しかった。
 どこにでもいける靴が欲しかった。




※色文字はマス目からずれている部分です。微妙なズレ方もあるので、判断に迷っています。
適宜編集お願いします。

  • 最終更新:2014-08-15 03:29:04

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