ドイルの視点1

本文

 彼はアカテと呼ばれる。その由来は知らな
い。こいつの手が本当に赤いのかもわからな
い。アカテはどこにでもいそうな、メガネを
かけたスーツ姿の男だが、いつも軍手をつけ
ている。食事中でもだ。
 過僑米線はアカテが足しげく通っている店
だ。ここにくればたいていアカテに会える。
こいつはいつも同じ、回鍋肉のランチを食っ
ている。
 オレはアカテに近づいて、「相席、いいか

い?」と声をかける。
「今日の天気は?」
 とアカテは言う。
「大雨だ。でも夕方にはあがる」
 そう答えて、おれはアカテの向かいに腰を
下ろす。

       ※
「大阪に行くことになったよ」
 とオレは言った。
 回鍋肉を米の上に載せてかき込みながら、
アカテは答える。
「お前にしては近いな」
「旅に距離は関係ないさ」
「厄介事か?」
「そうでもない。ただの親孝行だよ」
「ああ。親父さんのアパートか」
 どうしてわかったんだ、と尋ねる必要はな
かった。アカテは元々、親父の仲間だ。この

店も元々、親父がアカテに紹介したらしい。
 歳が三〇は違うふたりがどういう風に出会
い、どうやって親交を育んだのかは知らない
し、興味もない。なんにせよこいつは、オレ
にもいろいろと力を貸してくれる。
 オレも店員に回鍋肉を注文してから、ぼや
いた。
「久しぶりにまともなことを喋ったと思っ
たら、アパートの掃除をしてこい、だよ。まっ
たく身勝手で嫌になる」
 掃除というのは正確ではない。セッティン
グ?よくわからないが、部屋の内装を指定
通りに整えろとのことだった。奇妙な頼みだ
が、断りもできない。
「お前、ドイルを引き継いだのか?」
 とアカテは言った。
 オレはじっとアカテの顔を見る。今度は、
尋ね返さずにはいられなかった。
「あんた、どこまで知っているんだい?」
 親父はある会に所属していて、そこではド

イルと呼ばれていた。オレはその「ドイル」
を引き継ぎたいと頼んだ。その条件として親
父が出したのが、大阪のアパートの件だ。
 アカテは笑って肩をすくめる。
「べつに、なにも知らない。前に親父さんか
らちょっとした頼まれごとをしただけだ」
「どんな?」
「いつかきっと、リュミエールって女を捜し
てこの店を尋ねてくる奴がいる。だがリュミ
エールはもういない。その役割はドイルが引
き継いだ。そう伝えてくれってさ」
 リュミエール。その名前まで絡んでくるの
か。
「役割ってのはなんだい?」
「オレは知らない。ただ伝えろと言われてい
るだけだ」
「そうかい」
 オレは肩をすくめてみせる。
 親父に似ていると思ったことはない。だが
オレは親父に似ているとよく言われる。アカ

テにまったく同じような頼み事をしようとし
ているのだから、確かに似ているのかもしれ
ない。
「実は東京を離れているあいだ、あんたに連
絡役を頼みたいんだ」
「いつも通りだな」
「ああ。いつも通りだ」
 似た頼みは、これまでにも何度かした。
 オレの仲間は、アカテに「相席いいか?」
と声をかける。アカテは天気を尋ねる。その
質問には、「大雨だ。でも夕方にはあがる」
と答える。
 それでアカテは、オレの情報を仲間に伝え
る。伝言板みたいなものだ。ちょっと面倒だが
ハッキングされることもない。友人というの
は人類史の古くからあるものだ。古くから
残っているものほど確実だ。
「頼んだよ」
 とオレは言った。



※色文字はマス目からずれている部分です。微妙なズレ方もあるので、判断に迷っています。
適宜編集お願いします。

考察

聖夜通信7月号にて「新人のドイルさん」と有るため、この視点の時間は現在と考えられる

先代ドイル(親父)とアカテは歳が30は違う
  • アカテ>(30歳)>先代ドイル>現ドイルは無いだろうから現ドイルとアカテは同じぐらい

リュミエールを探してきた人に「リュミエールはもういない。その役割はドイルが引き継いだ」
  • リュミエールは役割を持っていた
  • リュミエールはいなくなった
  • ドイルが引き継いだ役割についてアカテは知らない

リュミエール、その名前まで絡んでくるのか
  • 別の名前が既に絡んでいる
  • 現ドイルはリュミエール個人を知っているのか、名前(称号)を知っているのか

現ドイルはアカテにまったく同じような頼み事をした
  • 入場証・招待状・大阪の住所メモ を渡す事?

  • 最終更新:2014-08-15 03:02:55

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